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東京地方裁判所 平成6年(ワ)21922号 判決

反訴原告

スペース・クリエーシヨン株式会社

反訴被告

織部喜好

ほか一名

主文

一  反訴被告らは、連帯して、反訴原告に対し、金四九万五八四七円及びこれに対する平成五年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を反訴原告の、その余を反訴被告らの負担とする。

四  この判決は、第一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告は、連帯して、反訴原告に対し、金一三八万九四五六円及びこれに対する平成五年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成五年九月一七日午後七時五〇分ころ

(二) 場所 東京都新宿区歌舞伎町二丁目三七番三号先路上

(三) 態様 右場所において、反訴被告多摩オクト物流株式会社(以下「反訴被告会社」という。)所有、反訴被告織部喜好(以下「反訴被告織部」という。)運転の普通貨物自動車(登録番号「横浜一一う六一四〇」)が、交差点を右折した際、反訴原告所有、反訴原告代表者運転の普通乗用自動車(登録番号「練馬三三ら六一九二」、以下「被害車」という。)に接触した。

2  責任

本件事故は、反訴被告織部の前方不注視の過失により発生したから、反訴被告織部は民法七〇九条に基づき、また、反訴被告会社は、本件事故当時、反訴被告織部を従業員として使用し、本件事故は反訴被告織部の業務執行中に発生したから民法七一五条に基づき、それぞれ原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

二  争点

損害

反訴原告は、本件事故による損害として、〈1〉車両修理代、〈2〉評価損、〈3〉代車料、〈4〉慰謝料を主張し、反訴被告らはその額及び相当性を争う。

このうち、〈1〉に関し、特に修理方法に争いがあり、反訴原告は、左後方クオーターパネルの交換が必要であると主張し、反訴被告らは、板金溶接で十分であると反論する。

第三争点に対する判断

一  車両修理代 二九万五八四七円

(請求 四三万三一一五円)

1  甲一、乙一、乙二、乙四、乙五及び証人古賀巽の証言によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故により、被害車には、右クオーターパネル、右リヤーコンビネーシヨンランプ、リヤーバンパー部分に損傷が生じた。このうち、リヤーバンパーは、やや左に押された状態で、右サイドに擦り傷と黒色の付着物があつたが、衝突部位が後部でないこと、バンパーフエースの損傷程度からバンパーコアには損傷がないものと思われた。右リヤーコンビネーシヨンランプについては、レンズが破損し、右クオーターパネルは、コンビネーシヨンランプ取り付け部付近に相手車の突起物によると見られる永久歪の凹みと裂損を生じており、裂損部には錆が発生している。

前記損傷部分の修理方法は、右リヤーバンパーのバンパーフエースは修理も可能であるが、被害車が購入後間もない車両であること等から交換が適当であり、右リヤーコンビネーシヨンランプは、その損傷程度からアツセンブリー交換となつた。

(二) 右クオーターパネルは、パネル交換と灸すえを併用したハンマリングによる板金修正の方法とが考えられた。パネル交換をする場合は、被害車と同型の車両の整備要領書(三菱自動車工業株式会社作成)によれば、ルーフサイドでカツトして溶接する方法を指示しており、この場合、スポツト溶接部はスポツト溶接を、カツトした接合部はアーク溶接または酸素溶接をすることになつている。右修理方法は、強度上問題は生じない。しかし、周辺の防錆塗膜が焼けることから補修用防錆塗料を塗布することになるところ、溶接部位が閉断面のため、防錆処理が十分にできず、接合部の防錆も深謝製造時の亡錆処理に比較して劣ることになる。一方、被害車の変形、損傷部位の面積は二〇平方センチメートル以下の狭い範囲であるので、灸すえを併用したハンマリングによる板金修正作業が容易にできる部位であり、この方法によれば、防錆の観点からも大きな問題は生じない。

(三) 右リヤーバンパーのバンパーフエースの交換、右リヤーコンビネーシヨンランプのアツセンブリー交換、右クオーターパネルの灸すえを併用したハンマリングによる板金修正等に要する費用は二九万五八四七円である。

2  右の事実によれば、リヤーバンパーのバンパーコアの交換までは不要であり、また、右クオーターパネルについては、交換よりも灸すえを併用したハンマリングによる板金修正の方が修理方法としてより適切というべきであるから、修理費用として、右のとおり認められる。

二  評価損 一〇万〇〇〇〇円

(請求 二一万六五五七円)

甲一及び弁論の全趣旨によれば、被害車は、いわゆる白色の三菱デボネアで、購入から本件事故まで一週間程度であり、走行距離は九二九一キロメートルであつたこと、被害車は、新車の時点では焼付塗装であるが、修理時はアクリルウレタン塗装を採用することにより、常乾型のラツカー塗料を採用する場合よりも白色の車両の黄変が生じにくく、少なくとも三、四年は生じないことが認められる。右の事実に前記の被害車の損傷程度等を併せて考慮すれば、本件事故により、被害車の重要な駆動部分に修理によつては回復できない損傷が生じたということはできないし、その外観も修理直後は、ほぼ新車と同様な状態まで回復できるというべきである。しかし、被害車が購入後間もない車両であることや、年数を経ると、修理による塗装部分が白色から黄変する可能性があること等の修理によつても完全に原状に復することができない部分があることを否定できないことからすれば、評価損として、右の額が相当である。

三  代車料 一〇万〇〇〇〇円

(請求 二三万九七八四円)

代車の必要性については当事者間に争いはなく、証人古賀巽の証言及び弁論の全趣旨によれば、代車の必要な期間は、被害車の修理に要する期間であり、右は一〇日間と推認することができ、一日当たりの代車料として、被害車の車種に照らし、一万円が相当であるから、右のとおり認められる。

四  慰謝料 認められない

(請求 五〇万円)

財産的権利を侵害された場合に慰謝料を請求し得るには、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存することが必要であると解すべきところ、本件においてこれを認めるに足りる証拠はないから、反訴原告の請求は認められない。

五  合計 四九万五八四七円

六  以上の次第で、反訴原告の請求は、前記五記載の額及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成五年九月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、反訴原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井千鶴子)

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